QUCS入門

山梨大学  大木 真
 
2007.03.19 改訂(Version 0.0.11 に対応)
2006.09.07 改訂(Version 0.0.10 に対応)
2006.04.19 初版(Version 0.0.8 用)

目次


0. はじめに

QUCS (Quite Universal Circuit Simulator) [1] は, グラフィカルなユーザインターフェースを持つフリーな電子回路シミュレータです. 多くの OS に移植されており MS Windows でも動作する, メニューが多言語化されており日本語のメニューもある, など初心者にも使いやすい特徴を持っています. 以下では, QUCS の基本的な使い方を説明します.


1. 基本的な操作

まず, QUCS を起動します. GUI はごく一般的な構成で, 上にメニューとボタンが並び, その下左側はプロジェクトや回路部品を選択するタブ, 右側は回路図を入力するキャンバスです.

左側に並んでいるタブの中から「部品」をクリックすると, 部品の一覧が現れます. 部品は, 抵抗などの「集中定数部品」, 電源などの「ソース源部品」, トランジスタなどの「非線形部品」, シミュレーションの種類を指定する「シミュレーション部品」などがあります.

まず, 抵抗を回路図上に配置してみましょう. 抵抗の絵を左クリックし, マウスを右側のキャンバス上に移動してもう一度左クリックすると抵抗が配置されます. この段階では, 続けて別の抵抗を配置できる状態になっています. 抵抗の配置を止めるには ESC キーを押すか, 画面の左側にある白い矢印ボタンをクリックします.

次に DC 電源を配置してみましょう. 「集中定数部品」の右側にある下向き三角マークをクリックして「ソース源部品」を選択し, 表示される部品の中から「DC電圧源」をクリックし, 右側の回路図上にマウスを移動してもう一度クリックします.

次に, 電源と抵抗を接続して電流を流す回路を作成してみましょう. 回路の一端は共通線(グラウンド記号)を用いることにします. グラウンド記号は GUI のボタンの中にありますので, クリックして選択し回路図中で再度クリックすると配置されます.

部品の間を接続する線(ワイア)は GUI のボタンの中にあります. ワイアボタンをクリックして選択し, 回路図の中で部品の端子をクリックしてからマウスを接続する先まで移動し, もう一度クリックすると接続が完了します.

回路図としてはこれで完成ですが, シミュレーションを行う場合, 結果を表示したい部分に名前を付けておかなくてはなりません. 電源などのソース部品には自動的に名前がついていますので, 今回の回路の場合, 名前を付ける必要があるのは抵抗の電圧です. ボタンの中から「NAME」と書いてあるボタンを選択し, 抵抗のグランド側でない端子をクリックすると文字列を入力するウィンドウが開くので, 「VR」など適当な文字を入力します.

次に, 実行するシミュレーションの種類を指定します. 今, 作成している回路は電源と抵抗だけの回路ですから, 回路を流れる直流電流を計算することになりますので, 実行するのは「DCシミュレーション」です. 「部品」タブから「シミュレーション部品」を選び, 「DCシミュレーション」を選択し, 回路図中の適当な場所で左クリックしてください.

ここまで入力したら, フロッピーディスクの形をした保存ボタンをクリックして, 回路図を保存します.

それでは, 実際にシミュレーションを実行します. シミュレーションは歯車の形をしたボタンをクリックするか, 「シミュレーション(S)」メニューを使用して実行します.

シミュレーションに成功すると, 自動的に画面右側にシミュレーション結果のタブが作られ, また左側のタブが「図表部品」に切り替わります.

今回は, 抵抗値の電流を計算しただけですので, 「図表部品」から「表」を選択してシミュレーション結果の適当な場所で左クリックします. すると, 「グラフプロパティー編集」の画面が表示されます.

「グラフプロパティー編集」の左側にある「データセット」には, 回路図中で名前が付けられている部分の一覧が表示されています. 表示したい名前をクリックして選択し, 下の「適用」ボタンをクリックすると, 選択した名前が右側の「グラフ」欄に登録されます. 今回は, 電源の電流 V1.I と抵抗の電圧 VR.V を登録し, 「OK」ボタンをクリックします.

これで, DCシミュレーション結果が表示されます. 電源の電流 V1.I は, 電源に流れ込む方向を正に取っていますので, 今回のように電源から抵抗に流れ出す場合は符号が負になります. 1V のDC電源に 50Ωの抵抗を接続した結果, 流れる電流が 0.02A と計算されていますので, シミュレーションが正しく行われたことが分かります.

[注] QUCS における電圧・電流の名前の付け方は以下のようになっています. 基本的に端子名(配線につけた名前)に対して .V を付けたものが端子の直流電圧, .v を付けたものが交流電圧を表します. また, 部品名に .I を付けるとその部品を通して流れる直流電流, .i を付けるとその部品を通して流れる交流電流が表現されます.

電圧・電流の名前表される内容
端子名.V端子における直流電圧
端子名.v端子における交流電圧
端子名.vn端子における雑音電圧
端子名.Vt端子における過渡電圧
部品名.I部品を流れる直流電流
部品名.i部品を流れる交流電流
部品名.It部品を流れる過渡電流


2. 回路図の編集

次に, 回路図の編集について説明します. QUCSは, 編集方法も通常のGUIのやり方に従っています. マウスの左クリックで選択した後ファイルメニューやボタンを使用するか,

あるいはマウスの右クリックで直接編集ウィンドウを開いて編集するか, です.

部品の性質(電圧,電流,抵抗値,等々)を変更するには, 編集メニューからプロパティ編集を選択します. すると, 「部品プロパティー編集」のウィンドウが開きますので, 必要な変更を行った後「適用」「OK」とボタンをクリックします.

ボタンやメニューが直感的に分かりやすく作られていますので, ここで述べた以外の編集についても容易に理解できると思います.


3. 回路図の印刷

回路図を印刷するには, 「ファイル(F)」メニューの「印刷」, あるいはプリンターの図柄の「印刷ボタン」を使用します.

印刷結果をファイルとして保存できるかどうかは OS の機能に依存します. UNIX 系の OS では postscript ファイルで保存できる場合が多いはずです. MS Windows の場合は, 「Generic Postscript Printer」を設定しておくか, 「Adobe Acrobat Distiller」などを使用することになります.


4. ACシミュレーション

もう少し実用的なシミュレーションを行ってみましょう. まず, 以下のような回路を入力します. AC 結合の典型的なトランジスタ増幅回路です. シミュレーション部品としては, 「AC シミュレーション」だけでなく「DC シミュレーション」も貼り付けておきます. AC シミュレーションに先立って DC バイアスの計算を行わなければならないからです.

DC バイアスの計算は, 「シミュレーション(S)」メニューから「DC バイアスの計算」を選べば自動的に行ってくれます.

結果は, 以下のようになります.

次に, 実際に AC シミュレーションを行います. AC シミュレーションのプロパティとしては, 計算を行う周波数の上限・下限や計算点数の設定などがあります. 今回は, 低周波増幅回路のシミュレーションですので, 10Hz から 100MHz くらいにしておきます. シミュレーション結果を直交座標のグラフで表示した結果は以下のようになります.

入力電圧は 1mV に設定してありますので, 中域周波数での利得は 100 倍を少し越える程度, 低域遮断周波数は 1kHz 付近, 高域遮断周波数は 10MHz 付近であることが分かります.

ところで, 上の図では入力電圧 VI.v を固定して出力電圧 VO.v のグラフを示しましたが, 増幅回路の場合, 実際に必要なのは利得 AV = VO.v / VI.v である場合が多いでしょう. QUCS では, 回路図の中に増幅度などを計算する式を挿入することができます. 式を挿入するためには, 「方程式を挿入」ボタン (四角い枠の中に f(u)=u+4 と書かれているボタン) を使用します.

「方程式を挿入」ボタンを選択し, 回路図の適当なところでマウスを左クリックすると, 回路図に「方程式」部品が挿入されます.

初期状態の「方程式」では, 変数 y に定数 1 が代入されているだけです. そこで, 「方程式」のプロパティを編集して計算したい式を入力します. ここでは利得を計算したいので, 計算したい変数の名前を AV に, 計算する式を VO.v / VI.v に書き換えます.

この状態でシミュレーションを実行すると, シミュレーション結果のグラフプロパティー画面に「方程式」で計算した AV が現れるので, 出力電圧 VO.v の代わりに利得 AV のグラフを描くことができます.

結果は, 次の図のようになります.

なお, 「方程式」では, 四則演算の他に三角関数,指数関数,対数関数など多くの数学関数を使用することができます.

5. 過渡応答シミュレーション

過渡応答シミュレーションも同様に行うことができます. ここでは, 以下のようなトランジスタのスイッチング回路をシミュレーションしてみます. 入力パルスは幅 500n 秒の矩形波であり, シミュレーション時間は 1μ秒, シミュレーション点数は 31 としています.

以下がシミュレーション結果です.


6. パラメータスイープ

ダイオードやトランジスタの直流特性のグラフを描く場合のように, ある電圧または電流を変化させながら回路各部の電圧・電流を次々と計算したい場合には, 「パラメータスイープ」シミュレーションを行います. 次の図は, ダイオードの直流特性の例です.

まず, 図中の「直流電圧源」 V1 に注目してください. 普通の DC シミュレーションでは, 電圧源のプロパティ U に 1V とか 5V とかの固定の電圧を指定しますが, パラメータスイープの場合には U に適当な名前(ここでは VD)を指定しておきます. 次に, 「パラメータスイープ」部品では, プロパティ Sim にスイープの対象となるシミュレーション部品の名前(ここでは DC1)を指定し, プロパティ Param にスイープさせたい変数名(ここでは VD)を指定します. また, プロパティ Start と Stop にはスイープさせたいパラメータの範囲を指定します (ここでは,-0.2V から 0.9V まで). なお, 直流電圧源の電流 V1.I とダイオードに流れる電流は大きさは同じですが符号が逆になっているので, ダイオードの電流が正で表現されるように「方程式」で符号を逆転しています.

シミュレーションを実行した結果は以下のようになります.


7. ディジタルシミュレーション

QUCS はディジタル回路のシミュレーションを行うこともできます. ただし, QUCS 本体の他に VHDL シミュレータである freehdl と g++ コンパイラが必要です. 詳しくは QUCS の web ページ [1] を参照してください.

以下の図は, 3進同期式カウンタの例です.

この例では, 周期100ns,デューティー比1:1のクロックを用い, 400nsの時間シミュレーションを行い, 結果をタイミングダイアグラム(タイミングチャート)で出力するように設定しています. シミュレーション結果は以下のようになります.

なお, QUCS の初期設定では, ディジタル部品の遅延時間は 0 となっています. 現実的なシミュレーションを行うには, 遅延時間に適切な値を設定してやる必要があります.


8. 部品ライブラリの利用

QUCS には部品ライブラリが付属しています. 部品ライブラリの部品を使用するには, 「ツール(T)」メニューから「部品ライブラリ」をクリックします.

すると, 部品ライブラリのウィンドウが開きます. 必要な部品を選択して, 部品ライブラリウィンドウの右下にある「シンボル」を回路図画面にドラッグ&ドロップしてください.

あるいは, 「クリップボードにコピー」ボタンをクリックしてから回路図画面に戻り, マウスを右クリックして編集メニューを表示させ, 「貼付け(P)」をクリックしても同じことができます.

後は, 通常の部品入力の場合と同様に, 部品を配置したい場所でマウスを左クリックすれば部品が配置されます.


9. おわりに

QUCS の基本的な使用法を解説しました.


参考文献

  1. Qucs project, http://qucs.sourceforge.net/


付録 日本語メニューの表示

QUCS は標準で日本語メニューを持っていますが, インストール直後の状態では英語メニューになっているはずです. QUCS で日本語メニューを表示させるためには, 以下のような設定を行います.


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